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自転車のある風景 第18 - 2 話 プロじゃないんだから

「ところで綾さん。初めてのデートが自転車の歴史展なんて、なんか、ごめんなさい。話は自転車のことばかり。」
 章吉が申し訳なさそうに話を続ける。あらためて考えてみると最初のデートがこんな内容では、自分の性格そのものに疑問を持たれるのではないかと章吉は心配になり始めていた。
「いえ、私も反対しませんでしたから」
 素っ気なく答えた綾の顔を章吉はそっと伺い見る。
「気疲れしてませんか?」
「はい。疲れました」
 大丈夫ですって返事があると思っていた章吉はちょっと驚き困った顔をした。
「すみませんでした」
 章吉の声が小さくなる。
「でも難しいカタカナ自転車用語を覚える必要がなかったから救われました。これ、本音です」
 章吉が肩をすくめる。
「あ、章吉さんを責めているわけではありません。ごめんなさい。嫌味ではないですから。気分も悪くはありませんし、ハンバーガーは大好きですから」
そう言いながら綾はおいしそうにハンバーガーにかぶりつく。そんな綾を見て章吉は少しほっとした表情をしてポテトをつまんだ。
「自転車も形こそ大きな変化はないけれど装備機材の進化はすごいんだよ。変速も今や、ワイヤーではなく無線だから。ディスクブレーキ仕様 電動コンポセットなんて代物は憧れるよ」
「そうなんですね」
「街中でロードバイクに乗ってヘルメットをかぶってサイクルジャージを着ている人はプロ並みの機材や装備をしている人が多いんだよ」
 楽しそうに語る章吉の前で、綾はその話には納得できないような顔をしている。
「それ、どうしてですか?」
 綾はおもむろに質問をした。
「どうして・・・か。野球だってサッカーだってユニフォームがあるのと同じじゃないかな」
「自由に街の中を走る自転車には、もっと素敵な服があってもいいのにな。プロじゃないんだから」
「でも機能性という点では間違いなく優れているでしょ」
 綾はふと先輩の言葉を思い出した。
「散走って知ってますか?」

・・・次回は10月10日・・・


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