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永井荷風「日和下駄 」

東京で散走するにあたり、いろいろな「参考書」が世の中に溢れているのですが、ふと手に取った永井荷風の「日和下駄 」は目の付け所がOVEの散走に似ているように感じたので、ご紹介しようと思います。

といっても決して「日和下駄を読みましょう」というわけではないのです。自転車本でなくとも、参考になる本はたくさんある。いや、散走について言えば自転車本でない本にネタはいっぱいころがっているなということをお伝えしたいのです。


この「日和下駄」という随筆集は、荷風が主宰していた「三田文学」に大正3年から4年にかけて連載されました。荷風は近代化の波が押し寄せ日々変わっていく東京の街を江戸時代の切り絵図を片手に歩きまわります。(現在でも古地図・・・アプリ等もあります、を片手に街を巡るのは楽しいものです。幾つかの時代の地図を比べられると、なお面白いのでオススメです)


序文のほか11のテーマごとに時に辛辣に、時に面白おかしく、たいていは大いに脱線しながら荷風節?が炸裂するのですが、以下に挙げるこれらのテーマがなんとも散走っぽいのです。

1, 日和下駄(その前にある序文とともに、街を歩き回ることについて、紹介している)
2, 淫祠(街の片隅にある道祖神等、民間信仰による像や祠、というのでしょうか。いまでも道端に残っている庚申塔やお地蔵さんなど。最近では、由来が説明された案内板が建てられているものもあります)
3, 樹
4, 地図
5, 寺
6, 水 附渡船
7, 路地(OVE散走でもスタッフが好んで入り込んでいきます)
8, 閑地(空き地)
9, 崖(この章と次の章は、地形を楽しみながら散走する
10, 坂
11, 夕陽 附富士眺望

路地や水辺、植物を愛でる、地形を楽しむ。一見なんでもない普通の風景の中にある「自分にとって特別な何か」を見つけて楽しむ。これらは、散走をする際の「ヒント」になるのではないかと思います。

ちなみに、その大正時代の東京は、

・歩く目線からも東京の地形がよくわかる・・・いまではビルに邪魔されて叶いません
・貧富の差が激しいまま残っている・・・いまでもそれなりに感じることがありますが、もっと激しかったようです
・江戸時代の名残りが街に残っている・・・関東大震災と空襲でほとんど失われました
・スクラップ&ビルドが繰り返されている・・・いまと同じ気がしました
・そして青山含め、少し都心(旧江戸)から離れたところには森や空き地、畑がたくさん残っている・・・ずいぶん都心から離れなくてはならなくなりました
・江戸を水の都と言わしめた掘割・運河の類がまだ残っている・・・ほとんどが道路の下に潜りました

そんな街だったようです。(よくよく考えると平成の30年を挟んだ昭和の風景と令和の現在の風景でも、すでに大きく変わっていますし、人々の思考も変化しています)

大通りを歩くよりも路地に入り人知れず佇む寺を眺めたり、空き地や崖に生える雑草を愛でる、という歩き方は散走に通じるものだと思います。

さて、「日和下駄」に限らず、東京の街のことを記した書物は、たくさんあります。小説の中に登場する風景の描写も含め、そのような風景を求めて散走に出かけるのは、楽しいものです。以前、ここで話題にした「ロケ地めぐり=聖地巡礼」にも通じるものがあると思います。(村上春樹さんの小説を読むと、OVE近辺の風景が出てくることがあります。現実=過去の風景とフィクションが適度に混ざっていることもあり、その場に確かめに行きたくなります)

それだけでなく、ふらりと散走しているとき、ふと「ああ、そういえば以前読んだ本に書かれていたのは、こういうことだったのか」と気づくのも、なんか得した気分になれて良いものです。





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