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自転車のある風景 第 16 - 2 話 「 Bicycles as Human Dreams 」

 年代順に整然と並べられた自転車たちをゆっくり観ながら、二人で一つ一つしっかりと説明書を読む。

 【 1839年スコットランド カーク・パトリック・マクミランがレバー式ペダルで走る後輪駆動装置を発明。これでライダーは、初めて地面から足を離すことになる 】
 声を上げて自転車の説明文を読んだ章吉は、その後にスマートフォンでなにやら検索を始めた。
「同じ年代の日本は江戸時代で天保10年、十二代将軍 家慶。天保8年には大塩平八郎の乱があった。この頃、吉田松陰や坂本龍馬が産声を上げてる。同じ時期にイギリスではもう産業革命だよ。この文明の差ってすごいよね。狩猟民族と農耕民族との差って感じ」

 【 1861年ピエール・ミショーが考案したベロシペード。ドライジジーネの前輪ハブに直接ペダルが装着された自転車はスピード感とバランス感覚の妙技を堪能することができるようになった。イギリスに渡ったミショー型自転車は、当初その評判は芳しくなく、ボーンシェーカー(背骨ゆすり)というあだ名をロンドン子に付けられてしまった 】
 章吉がまた、さっきより大きな声で説明書を読み上げる
「アメリカではリンカーン大統領が就任。南北戦争が勃発。日本では明治元年が1868年ですね。調べてみたら明治元年は旧暦慶応4年9月8日、西暦でいうと1868年10月23日で、10月23日から12月31日までが明治元年なんですが、慶応4年をもって明治元年としたから、1868年1月25日から12月31日までを明治元年としてますね」
 今度は綾が章吉より先に同年代の日本を検索して、その結果をつらつらと読み上げた。
「1853年だよね、黒船の来航は。明治元年の件はそんなに複雑なんだ。ただ、一番大きいのは江戸幕府が終わって江戸を東京と名前を変えたり、天皇が京都から東京へ移ったり、版籍奉還とか廃藩置県の実施ってさ、こんなに大きく時代が動いた瞬間に生きてた人はどんな気持ちでいたんだろうかって思うよね。スマートフォンの普及も生活を大きく変えてしまったけど、時間軸や社会の構造までは変えてはいないもんね」

【 1870年頃イギリス ジェームズ・スターリーはスピードを追求するために前輪を巨大化させたペニー・ファージング、あるいはハイ・ホイール・バイクと呼ばれた自転車を開発 】
「これ、どれだけ脚が長い人が乗ってたんだ? ケンケン乗りするしかないよね」
 章吉は説明書は読み上げないで、両手を広げてサドルとペダルの距離を確認して不思議そうに自転車を見る。
「オーディナリーとも呼ばれてるようで、日本ではダルマ車と呼ばれた。前輪がこの大きさになると競技用として使われたみたい。1870年は明治3年、竹内寅次郎提出の自転車製造販売願に「自転車」という言葉が初めて記載されたって」
 綾は変わらずつらつらと検索結果を読み上げる。
 真正面にあるスクリーンに流れる自転車の変遷をまとめた映像をしばらく眺めていると、その自転車に乗って坂を駆け降りてきた選手がゴールしたあとに草むらや池に倒れ込んで止まる映像があった。
「なるほどね」
 それを観た二人は本当に実際にあったことなんだと、納得しましたとばかりに頷いていた。

 【 1879年イギリス ハリー・ジョン・ローソンが前後輪の間にペダルを置き、後輪に付けたギアとチェーンで結ぶ駆動方式を発明しビシクレット(  Bicyclette…二つの小輪  )と名付けた。これが英語の Bicycle の元となる 】
「同じ年に沖縄県の設置、琉球王国の消滅ですね。1879年に、18代大統領としての任期を終え、元大統領として初めて日本を訪問したのがグラント将軍」
 綾は章吉はもう説明書は読み上げないと判断したのか、先に声を出した。
「そういえば沖縄復帰50年の記念硬貨を発行すると報道されてた。第二次世界大戦で1951年に署名されたサンフランシスコ講和条約でアメリカ合衆国の施政権下になって、施政権がアメリカ合衆国から日本国に返還されたのが1972年だったかな」
「ドライジーネからここまで60年かかったんですね。これは進歩ではなく進化だと思いません? もっと遠くに、もっと機能的に、もっと楽に移動したいって気持ちがこの進化の原点なんでしょうね」
「それに、もっと速く。だね。まさに  Bicycles as Human Dreams 」
「やっぱり、道具の進歩は確実に人の文化も進歩させるんだと思います」
 今日一番の元気で、ちょっと得意げに話す綾。
 そんな綾を見て、章吉がにやりと笑って言った。
「タイムトラベラーのお蔭ってことね」


・・・次回は05月10日・・・


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