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自転車のある風景 第10-1話 いつもの風景

 みどり色の風が吹くいつもの景色が、銀杏の葉で黄金色に染まる中、いつも通りに自転車で走り出した。あの日見かけたアゲハが空に消えていった。
 自宅から会社までの約15kmを1時間弱で通っている。
 もう少し早く到着できるだろうと言われるが、
「ルールは守るもの、マナーは思いやり、モラルは心」
と 先輩から頂いたこの言葉を大事にして走ると、これくらいがちょうどいい。
自転車で通勤するならば遅刻しないことが大前提だから、汗をかく季節なら着替えをして体温が落ち着くまでの時間、パンクしてもチューブ交換15分、それくらいの時間の余裕を持って出発すれば大丈夫だ。

 先輩から自転車で通勤すればいいじゃないかと言われたときは、拒否反応さえ出ないほど、どうでもよかった。確かに、あの満員電車の苦痛を考えると自転車の方が爽快なのは当たり前だけど、15kmは長いでしょうとしか考えなかった。
 乗ってみるかと言われて生半可な返事をしていた俺が悪かった。いや、今となればそれが良かったのだが、よほど同志が欲しかったのか、その先輩は声をかけてくれたその週末に自宅へと俺を招待、俺のために整備された赤いロードバイクがすでに用意されており、そのまま一緒に走ったあと、半ば強引にこのロードバイクに乗れと渡された。
 街を眺めてみると、案外、赤い自転車に乗っている男性は多く、気後れすることはない様子。
 逆にこれくらいに綺麗な自転車に乗るとなると、服装やらなんやらに気を遣わないと格好が悪いために、以前よりも自己投資をしている。
 強引ではあったけれど、自転車があんなに気持ちよく、颯爽と走れるものだなんて知らなかったから、いい経験、いい気付き、いい時間を貰ったと大いに感謝している。

 自転車は雨はしのげないし、向かい風には心が折れそうになるし、夏は暑いし、冬は寒いし、坂は何回上っても楽にはならない。
 ところが、そんな1時間の自転車通勤が4年間も続いている理由は、満員電車の苦痛を避けることを優先するわけではなく、自分の穏やかな気持ちを大切にするようになったから。地球儀廻して、地球100周分くらい走ってやるぜなんて思いながらクルクルとペダルをまわす。
 
 走り始めた頃は、サイクルコンピュータに表示されるスピードや距離、心拍数ばかりに関心があり、その結果に一喜一憂、目に入るものは機械がもたらす結果ばかりだった。
 だいたい同じような毎日だけど、昨日の雨、今日の太陽、明日の風と日々、同じシーンは一つもないことを学ぶまで、少々、時間を要した。
 高層ビルと高速道路に挟まれた狭い青空を見上げたり、次第に色を変え、ついには散ってしまう銀杏に時間の流れを感じたり、街を歩く人の服装に季節の変化を読み取る。
 風の吹くまま、気のむくまんま、まだ知らないことばかり。
 電車で通勤していたら絶対に味わえなかった、穏やかな感情が生まれる一人の時間をとても貴重に感じて自転車で走っている。

・・・つづきは04月22日に掲載・・・


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