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わたしの散走STORY 第5話


定時ちょうどにオフィスを出ると、駅に向かう人の流れがすごい。まるで海の中の回遊魚になったようだとぼんやり思いながら、流されるようにいつしかホームにたどり着く。スマホで今日のニュースや、友人たちのSNS投稿をチェックしながら満員電車に揺られるのにはもう慣れた。いつも3駅先で一気に人が降りる。さあ今日は座れるか。大学を出てこの会社に入ってもうすぐ5年。営業職にもこのまちにも慣れ、なんとか上手くやれてると思う。業績もまずまずだ。

ひとり住まいのマンションに戻ると、ビールを開けてパソコンで動画サイトをなんとなく見るのが一番落ち着く時間。明日は土曜日なのに何の予定もないので、夜更かしするかともう1本ビールを取り出しSNSを開いた。


「なにこれ。さんそう? ふーん、自転車で」自分しかいない部屋ではひとりごとが響く。誰かが自分の興味を深掘りできると投稿していた“散走”という言葉がやけに頭の隅に引っかかった。

自慢じゃないけど運動はずっと避けて通ってきた人生。骨の髄までインドア派で、球技も走ることもやらない、やりたくない。だけどどうだろうこの散走は、「ゆっくり走って立ち止まり、目線を変えて道のりを楽しむ」とサイトに書いてある。自転車って目的地に一目散に向かうものじゃないの? 急がないの?「散走かあ」とベッドに寝転んだ。いつの間にか深い眠りに入っていた。

それから散走が頭から離れず、ネットで自転車のタイプを調べ、スマートなクロスバイクを買った。おまけに通勤用のリュックも買った。会社の許可を得て自転車通勤に変え、もう会社からの帰り道に回遊魚になることはなくなった。通勤時間は短くなったけど、ゆっくり走るので所要時間は電車通勤のときとほとんど変わらない。でも収穫がちがう。

ペダルをゆったりこぎながら、青山、表参道、渋谷、代官山、中目黒…。帰り道にいろんな年代の、いろんな人のスタイルをウォッチできるのはファッション業界の営業として旬のトレンドや季節を先取りしたいち早い変化まで敏感に感じ取れる。そしてスピードを出さない散走だからこそ、この目にしっかり留まる。もう下を向いてSNSばかり追いかけてはいない。

今度の週末は一緒に散走するか、とスマホでメッセージを打った。付き合いはじめたばかりの彼女から「OK!」の返事がすぐに届いた。

【Fin】

***

散走のかたちは人それぞれ。いろいろな人が好きなスタイルでゆっくりとペダルをこいでその時だけの時間を楽しんでいます。OVEのオリジナルストーリー。この主人公たちは、あなたのまちにいるのかもしれません。


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