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わたしの散走STORY 第4話


夫のコーヒー、娘のオレンジジュースは準備OK。あとはトーストが焼けたらサラダと目玉焼きを添えて。よし、今日の目玉焼きの半熟具合は完璧。着替えを済ませた夫と娘がダイニングにやってきた瞬間、トースターからチーンとパンがはねた。

夫の転勤でこのまちにやって来てもうすぐ1年になる。毎朝、食事の後に娘の支度を整えながら夫を送り出し、私は娘を幼稚園へ連れていく。幼稚園を往復する相棒はこのまちに来て買い求めた電動アシスト自転車。なだらかな坂道の中腹にある我が家にとって頼りない私の筋力には電動のチカラが欠かせない。坂を上って幼稚園から戻ると、ひとりになった家で家事を片付ける。専業主婦という立場は決して嫌いではなく、洗濯物、掃除、食事の用意をてきぱき済ます。娘を迎えに行くまでの、ひとりの時間をできるだけ作るために。

洗濯物を取り込んでいたら、お隣の奥さんが声をかけてきた。ご主人のすすめでスマートなスポーツバイクを購入したらしい。奥さんからの「一緒にどう?」という誘いに「わたし?無理無理。出産してからすっかり体力がなくて」と笑いながら答えると、「それがね、体力がなくてもゆっくり走ればいいの。散走っていう楽しみ方があるのよ」。隣の奥さんの話に惹かれたのは、体力的な安心感だけでなく、「私たちって子どもが小さいうちは育児に追われがちだけどひとりの時間は自由にしていいと思うんだ」という言葉。私はさっそくこのまちを巡ってみることにした。

もちろん散走の相棒は電動アシスト自転車。まずは今まで行ったことのなかった坂のその奥へ上ってみる。住宅が減っていき、山の姿が立ち上がり、いつしか私は木々の静けさに包まれていた。


空気が変わったことに気づき、立ち止まって振り返った瞬間、このまちの全景が目の前にあらわれた。空がとても近く感じた。

少しだけ摘んで持ち帰った道端の名もない花を、ダイニングテーブルに飾った。なんて愛らしい。そしてとても清々しい。夫に散走の話をなんて伝えようか。一緒に行きたいと言い出すんじゃないだろうか。おっと、娘のお迎えの時間だ。いつもより軽い気分で、幼稚園までの下り坂を滑り出した。

【Fin】

***

散走のかたちは人それぞれ。いろいろな人が好きなスタイルでゆっくりとペダルをこいでその時だけの時間を楽しんでいます。OVEのオリジナルストーリー。この主人公たちは、あなたのまちにいるのかもしれません。


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