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「ソーシャルプロダクツ」X「散走」企画、大賞受賞作品が、OVE散走として生まれ変わるまでに気づいた幾つかのこと

普段はほとんど自転車には乗らなかったけれども、「ソーシャルプロダクツ」と「散走」の接点を探しながら考えた企画が、実際にOVEでのイベントとして作り上げられることになった森翔人さん。スタッフと下見を重ね、散走について理解を深めるなかで気づいたソーシャルプロダクツとの奇妙な共通点とは。


「ソーシャルプロダクツ」と「散走」学生としての視点


 森翔人さんは、2018年3月現在法政大学の修士2年。途中学校を一年休学している。CSR(企業の社会的責任)について研究していた森さんは、休学している間に東ティモールへ渡航、オーガニック・コーヒーを作っている農家の実情を学び、そのうえでフェアトレード認証の手続きをサポートする活動にインターンシップとして参加した。帰国してからは、実際にコーヒーを提供する企業(店舗)の社会的責任についても考え、カフェで修行もしていたという。


そんな森さんが、突如「散走」のある世界にやってきたのは、ゼミの先生が「散走」に興味を持ったことが原因だった。
2016年の秋、OVEのマネージャーがゼミにやってきた。森さんは、そこで初めて「散走」という言葉を聞く。さらに、OVEでは「ソーシャルプロダクツアワード」の授賞式および、受賞作品の展示をしている事、年明けに「ソーシャルプロダクツ」と「散走」を結びつけた企画のコンペを行う事を知った。

 ソーシャルプロダクツとは、企業および他の全ての組織※が、生活者のみならず社会のことを考えて作りだす有形・無形の対象物(商品・サービス)のことで、持続可能な社会の実現に貢献するものである。(※個人も対象に含まれる)

以上が「ソーシャルプロダクツ普及協会」のサイトにある定義である。そしてそれらのプロダクツは以下のような事項に関連している

・環境配慮 ・オーガニック ・フェアトレード ・寄付(売上の一部を通じた寄付)
・地域の活力向上 ・伝統の継承・保存 ・障がい者支援 ・復興支援、など

2017年3月。学生による「ソーシャル」X「散走」企画コンペに森さんの研究室の学生さんたちが参加、関東の部では森さんの企画「It's traditional and contempolary」が見事大賞を受賞した。テーマは、谷根千と呼ばれる上野と隣接するエリアを舞台にソーシャルプロダクツの特に「伝統の継承・保存」と「地域の活力向上」に焦点を当てたものだった。



 受賞時には、企画を実際に「OVE散走」として実現させようという話はなかった、はずである。ところが半年後、突然OVEから「OVE散走として作り上げたい」という連絡がきた。もちろん、企画が実現するのであればと快諾した。

高校の時、通学で片道3.7kmの道のりを走っていたが、大学生になってからは自転車とほぼ無縁の生活を送っていたという。久々に自転車にまたがり、実施までに行った三度の下見を通じて、森さんは「散走」とは何かと考えながら、さらに「散走」と「OVE散走」の違いにも気づく事になる。


「企画」を「イベント」として作っていく中で気づいた事


 実際にイベントとして「OVE散走」を実施するための下見を始めると、企画を考えていたときと「何かが違う」ことに気づかされた。
参加者を合わせると10人超の集団だということ。そしてその集団が一斉に自転車で動くということ。これらについて、考慮すべき事柄が案外多い。
・立ち寄るカフェにはどれだけの人が入れるのか。待ち時間が必要なのか予約できるのか。参加者の方々に満足して頂けるのだろうか。
・立ち寄りポイントで説明を伺うとして、大勢が一度に入って、その場所の迷惑にはならないだろうか。
・集団で走る時に、どれくらいの時間のロスがあるのだろうか。たとえば、信号で集団がいくつかに分かれてしまったとき、信号を待つのにどれくらいかかるのか。
・自転車を止める場所は確保できるのだろうか。
そういうことを考慮しながらも、企画のコンセプトを参加者に伝えることが最も大事なことだ。そのように考えながら、散走スタッフと谷中の街を巡った。



 谷中周辺を隈なく走った1回目の下見で、気づいたことがあった。森さんの企画では、自転車は森さんが焦点を当てたスポットを結ぶための移動手段という役割が強かった。
「自転車に乗っていると、点と点が結ばれて線になる」
とよく言われるが、その「線」は直線に近いものだった。
「点と点をまっすぐ結ぶ、というイメージです。でも、下見をしたときに、先頭を走りながら後ろから『この路地、入ってみようか』とか『そこ、見てみない?』と言われて走っていると、点と点を結ぶ線の部分が楽しいのではないかと思えてきました」
実際は、蜘蛛の巣のように縦横に絡んでいる道を阿弥陀籤のように(でも不規則に、興味に任せて)進む。すると、蜘蛛の巣のような道によって作られた街が立体的に浮かび上がってくる。
「走りながら考えているうちに、線が組み合わせられて面を作ることが大切なのかな、と感じるようになりました」
でも、そこで最初の下見は時間切れ。それから半年、散走のことは忘れてしまうくらいに、卒業のための論文制作に没入することになった。


ソーシャルと散走との親和性


5ヶ月後、本番まであと半月。二度目の下見を行った。5ヶ月ぶりで最初は調子がわからなかったが、しばらく走っていると、散走の感覚が戻ってきた気がする。同時に、「ソーシャルプロダクツ」と「散走」との間には類似点があるように思えてきたという。それは、「一歩踏み込むことで、接点が生まれる」ということ。
「ソーシャルプロダクツというのは、生活者(プロダクツを購入する人)が、ソーシャルプロダクツのストーリーに踏み込むことで、ソーシャルプロダクツを生み出している社会との接点ができます。それによって、その生活者がより良い社会づくりへ参加できるようになるのです。一方、散走の場合は、自転車に乗って街の中に踏み込んでいくことで、街との接点ができます。それによってその街そのもののことをより深く理解できるのではないかと思えてきたのです」
森さんは街の中で話題にしたかった「プロダクツ」や「ポイント」に引っ張られ過ぎていて、散走によって作られる線・そして面の部分を活かせていないという事に気づいたのだった。



「話題」や「驚き」は実は道の上に落ちている!


「自分の企画のコンセプトを伝えられる『ストーリー』は、谷中にある店や工房・ギャラリーにあると思っていた。でも実はこの街にある景色や事物の中にこそ、伝えたいと思っていた『ストーリー』が存在しているのではないか」
と感じた森さん。ぐるぐると谷中の街を繰り返し走っているうちに、だんだん目に入ってくる風景に対して敏感になっていくのを感じたらしい。実は重要なのは、そこなのではないか。そういう実感を得た2度目の下見だった。でも宿題も残った。
一番頭を悩ませたのは、立ち寄り場所が決まらないことだった。イベントとしての散走の場合、休憩したり、参加者が交流したりする機会を作るために、立ち寄る場所や休憩する時間を設けておきたい。でも、コンペの時に想定していた場所は、狭かったり、待ち時間が長そうだったりで、当日利用出来ない可能性が高い場所が多かった。十分なスペースがあったり、「ここは是非立ち寄りたい!」と候補に挙げていたギャラリーの大半が、なんと当日休廊だという。なんとか一箇所、ギャラリーを見つけたものの、心許なかった。(結果的にはそのギャラリーを選んだことは大成功だった)
また、最初に立ち寄りたかった東京芸大は試験の真っ最中で立ち入り禁止だった。(こちらも、東京芸大に関係のある作品を見つけたことで、ストーリーが出来た)



週末には本番という火曜日に3度目の、最後の下見を行なった。前日にOVEスタッフから送られてきたマップを参考にポイントを確認しながら自転車を走らせる。相変わらず「ちょっとここ入ってみようか」と細い道に手を出してみたり、立ち寄りポイントの候補になりそうな場所をのぞいてみたり。
そうやって走っていると、前回感じた「本当に面白いと思うことのできる話題や驚きは道の上に落ちているのではないか」という思いはますます強くなっていった。道端に見えるあらゆるものに、何かしらの価値を見出すことができるような気になってくる。テーマにした「伝統」も作られた部分だけでなく普通に街の中に存在している。谷根千というエリアの「地域の活力」の源は、店やギャラリーにあるのではなく、普通に存在している街並みの中にあるように思えてきたのだ。
「最初はそれぞれのストーリーを持ったお店や、人を巡るために自転車を利用するというイメージだったのだけれど、むしろ道の上でストーリーを拾っていく。それこそが散走の醍醐味ではないか、と思うようになりました。拾っていった一つひとつの“ストーリー”が混ざり合って「散走」が出来上がる気がします」
そのストーリーと散走との関係は、プロダクトのストーリーへの共感で広まっていくソーシャルプロダクツにも通じるものがあるように感じられた。


そして本番。最後の下見とほぼ同じ道だったのに、全く違うストーリーが見えてきた。それは、単にお客様を連れて走るというイベントだったからではなく、散走というストーリーが、道や街だけでなく、天候や季節、登場人物(=参加する人たち)によっても変化するものだからではないか。森さんには、そのように思えてならなかったという。



自転車で走り終わって、ビアホールにて「反省会」クラフトビールを飲みながら
「街の中を走っているときに、普段気にしていないいろいろなものが目に入ってきたのが面白かった」
という感想を聞いたときに、
「嬉しいなぁ、まさにそこに気づいてもらいたかったんです!」
と喜んでいた森さん。



今回OVE散走のイベントを作り上げていく中で、街の中にあるストーリーを拾い上げていくと一つの大きなストーリーが作り上げられることを知った。ソーシャルプロダクツを軸として、散走について考えていったからこそ思い至った、森さんならではの散走は、社会活動にも活かせる可能性を秘めている。

「そのためにも、就職して落ち着いたら自転車を買って散走してみようと思っています」

まずは、気ままに自転車に乗ることが、森さんにとっての「はじめの一歩」となるに違いない。

近影

森 翔人
もり・しょうと
茨城県ひたちなか市出身。
法政大学大学院修士過程を2018年3月に修了。所属は土肥将敦研究室(研究領域はCSR=企業の社会的責任、ソーシャル・イノベーション、社会的企業)。
修士課程の研究テーマは「企業のグローバル・サプライチェーンにおける労働問題に対するCSR」。現在はその研究で得た学びを活かし、サプライチェーンのCSRに関する企業コンサルティングに従事している。

Photo:中村 規

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