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「散走」で地域活性化を目指すNPO代表の「私の散走」は「自転車乗りの反対」

「散走」を行動の「様式」としてではなく、自転車に乗っている時の心の「状態」と考えると、散走の別の一面が見えてくる。そう語る永田さんは心が「散走状態」にある時の周囲との「繋がりやすさ」=コミュニケーションツールとしての散走を武器に、地域の未来を切り拓く。


スペイン・南仏で出会った「ココロが開かれる」感覚


普段は、大手電機メーカーにお勤めの永田さん、本格的な自転車との出会いは2005年、スペインに駐在したのがきっかけという。
「欧州の自転車文化に触れ、本格的に自転車にのめり込んでいきました。スペインや南仏の情景の中に存在する自転車、景色・自然・街・人・そして自転車、その全てが心地よかったのです。」



地中海地域で自転車に目覚めた永田さんは自然とロードバイクの世界にのめり込んだ。時間を見つけてはスペインや南仏の道を自転車で巡った。でもひたすら走るだけではなく、訪れた街の中をのんびりと自転車で巡る時間も楽しんでいた。
ヨーロッパの自然の中を一人で走る時間、そして街に着いた時の安堵と開放感。
あるとき坂の上の街で、地元のおじさんに「ようこそ!よく上ってきたな」と迎えられた瞬間「心のスイッチ」が切り替わった。自分と対峙しペダルを踏む内向きの気分から意識がパッと開いていく気持ち良さ、地元の人と繋がった居心地の良さ、そして五感に訴える景色。これらがごちゃ混ぜになった感覚!



「今思えばそういう感覚こそが散走に通じるものでした。」
当時の永田さんは、散走を知らない。なぜなら「散走」という言葉が世に出ていなかったから。


飯山の仲間との出会い・とにかく自転車に乗るということ


長野に転勤したのは2011年。サイクリングの情報を求めていくつかのクラブに顔を出したなかで、一番自然に迎え入れてくれたのが飯山市に拠点を持つサイクリングクラブだったことから、永田さんと飯山市との付き合いが始まる。
クラブでは「若手」の永田さんは、いろいろなイベントに顔を出すことになった。ある時は参加者として、ある時はボランティアとして。そのなかで自転車に乗っているからこそ、人々と繋がれるという、南仏で経験した居心地の良い感覚を何度も経験したという。



しかし、つきあいが深まると同時に地方の抱える問題を強く意識することになった。
「飯山は若者がどんどん減り高齢化が進んでいる。このまま放っておけば地域の衰退は免れない。クラブの方々と話すとき、飯山の良さや希望だけでなく、問題点や悲観的な意見など、様々な想いが熱く語られるのです。」
飯山をなんとかしたい。クラブの人たちの想いには、他所からきた永田さんだからこそ何か変えられるかもしれない、という期待も混じっているのを感じた。
「そんな経緯もあって、地域活性化のための研究会を立ち上げることになりました」
永田さんは代表に就任した。一見すると大人しい永田さんだが、3人兄弟の長男だからか、隊長的な一面も持ち合わせているらしい。
研究会が発足してから最初にしたこと。それは「定期的に自転車に乗ること」だった。



「少なくとも2週間に1回は必ずみんなで自転車に乗って地域を巡りました。自転車で走っている我々をアピールするのが目的でした。」
走っている時は笑顔で、周りの人と繋がれる「心が開いている」状態を意識した。すると、不思議と通りかかった道端で話しかけられる。回数を重ねるにつれ、人々との交流が増えた。いままでなら会話をしなかったであろう人たちと繋がり出した。なかには、仲間に加わる人たちもいた。
そうして、少しずつ仲間が増えてきた頃に永田さんは「散走」と出会う。


散走との出会い・永田さんの「私の散走」


ある人から紹介されて訪れたOVE南青山。参加したのは隠岐島の海士町からゲストを招いた「島x環境x自転車ライフ」(http://www.ove-web.com/event/eventrep/entry-895.html
海士町の活動や散走の話を聞いて「これだ!」と直感した。これまで経験した心地よい感覚は「散走」という言葉で表そう!
こうして研究会に「散走で楽しい地域を拓く会」という名前がついた。散走の他、地域のイベントがあるときにも積極的に参加しているという。



ところで、永田さんの考える散走とはどういうものなのか。質問を投げかけると
「"自転車乗り"の反対です」
と即答された。
ロードレーサー(それもエアロと呼ばれる、平地をひらすら速く走るための)に乗っている永田さんは「速く・高く・遠く」という自転車の乗り方も実は大好きだという。そのような自転車の楽しみ方を"自転車乗り"と表現したときに「反対」にあるのが「散走」。自分の内側へ意識が向く「"自転車乗り"モード」に対して、意識が外に向かって開いてつながる「散走モード」。そういう意識の違いとして散走を捉えているとのことだ。

そもそも「人見知り」だという永田さん自身の「散走」は、一人で気ままに走ること。その中で、様々な考えを巡らせたり、目に飛び込んでくる物事に立ち止まったり、次々と移り行く長野の自然に応じて進路を変えてみたり。
走りに集中する「"自転車乗り"モード」と風景の中に溶け込んでいく「散走モード」が走りながらも切り替わる。「散走は"自転車乗り"の反対」という言葉が生まれた背景には、スペイン・南仏での体験から積み重ねられた永田さんのそんな日々の経験がある。



↑ "自転車乗り"のイメージ / ↓ "自転車乗り"の反対=散走のイメージ



「散走モード」の時に「自転車乗りモード」のスイッチが入ったり、「自転車乗りモード」の時に「散走モード」のスイッチが入ったりすることもある。言われてみると、すんなりと理解できる。


NPO法人「散走が楽しい地域を拓く会」


研究会の活動範囲は次第に広くなり、自治体や法人と動く機会が増えるに従い、責任のある法人としての活動を求められることが増えた。そこで2016年5月、NPO法人「散走が楽しい地域を拓く会」を設立した。
「地域活性化の活動を焚き火に例えると、今は種火を起こして火種を創リ始めた段階。この先、炭に火を移して大きな炎にしていく必要があります。大きな炎になり燃え上がったら今度は炭を足す、風を吹き込む、不要な炭を除くといったメンテナンスも必要です。」
「今はまだまだ入り口の段階。まず火種を確実に育てて炭に移せるようにしたい」
これからどのような炎が燃え上がっていくのか、飯山から目が離せない。

近影

永田 将克
ながた・まさかつ
NPO法人「散走が楽しい地域を拓く会」代表
自転車に乗って「散走」している時、周りにいる人々とのコミュニケーションが取れるという感覚や、欧州駐在中に経験した「自転車のある社会・風景全体の心地よさ」から、散走を地域のコミュニケーションツールとして活用することで、地域の活性化を図る活動を行なっている。

Photo:散走が楽しい地域を拓く会/永田 将克(提供)、Tadashi NAKAMURA(撮影)

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