OVE

フラワーデザイナー 森美桜子さん


「これはアメリカのオハイオ州でビル・ヒクソン先生についていたときの写真です(下写真左)。一緒に写っているこの子が今はもう就職しているんですよ。先日は初任給で贈り物をくれました(笑)。この写真を撮ったとき、下の子もお腹にいたのではないかしら」


そう言われても、森美桜子さんの若さと美しさを前にするとまったくピンとこないのですが、ご本人が言うのですから、それが20年近く前の写真だと信じるほかはありません。

森さんがアメリカで最初に師事したビル・ヒクソン氏は、ホワイトハウスの装飾を手がけて一躍有名になったフラワーデザイナー。ご主人の転勤でニューヨークにやって来た森さんは、オハイオ州にあるヒクソン氏の教室に通い始めました。ご主人の理解と協力があって初めて実現したことでした。

「それからロバート・カップという先生にもついて、アシスタントとしてアイビーリーグのホテルの装飾なども経験しました。あとはもう一人、女性の先生の教室にも。アメリカで暮らした4年間を通して花を勉強していましたね、英語もできなかったのに(笑)。今思えば、子育て時期のエネルギーがあってこそかもしれません」

この武者修行(?)を経て帰国した森さんは、ブライダルやレストランの仕事を積極的にこなしながらキャリアを積んでいきます。




そもそも森さんがフラワーデザインを志すきっかけになったのは、ご自身の結婚式を彩るための花選びでした。

「教会装飾の打ち合わせをするうちに花に興味を抱きました。あの色、この色と少しずつ入れていくのが楽しくて。すると、そのうち他の方の結婚式もやりたいという思いが出てきました。ウェディングはその方が主役になる大切な日。その演出をお手伝いしたいと思うようになったんです。そこで日本のフラワースクールに通い始めて、主人のアメリカ転勤が決まってからは、教会装飾もたくさん手がけていたヒクソン先生につくことにしたんです」

こうした経緯から、あえて森さんのデザインのルーツを問うなら華やかなブライダルに代表されるアメリカンスタイルということになりますが、実際にはずいぶん変化していると森さんは言います。

「アメリカでも日本でもたくさん勉強しておきながら、結局は“マイ式”になっちゃうんです。いろいろ経てきた結果、自分の好きな表現しか残っていませんね、コアな部分に関しては」

では“マイ式”の特徴はどんなところにあるのでしょうか。

ひらめきなので言葉では難しいんですけど、やはり花が自然界にある姿をそのまま持ってくることかもしれませんね。アメリカではビビッドな色にこだわりますが、いざ自分のオリジナルということになると、それはあまり前面に出さないかもしれません」

どこまでもナチュラルで、華美に走ることなく、それでいてなぜか華やかでもあり元気でもあるという絶妙な“感じ”。言葉で表現しなくとも、森さんの作品を見ればすべてが理解できるでしょう。




さて、マイ・スタイルを確立して各方面で活躍する森さんですが、心境に意外な変化が起こりました。数年前のことです。

「ブライダルのように、その方の一生を演出することに私が携わっていていいのだろうか……と感じるようになったんです。常にパーフェクトな仕事ができるわけではありませんから、終わると懺悔するような気持ちになっちゃうんですね」

なんと正直な。そこまでカミングアウトする表現者はあまりいないはずです。いや、それができる森さんだからこそ、あのナチュラルで優しい花の表現が可能なのだと理解するべきなのでしょう。

そしてあるとき、悩む森さんのもとに一風変わった仕事が舞い込みます。東京都内の老人ホームで、入居者のお年寄りに花を届け、一緒にアレンジを楽しむというものです。

「それが自分に合ってしまって、今では生き甲斐にまでなりました(笑)。お年寄りの方々が『2歳若返る』と言ってくださるんです。老人ホームのお仕事で大切なのは、花の香りと新鮮さです。最初は私も皆さんに手を動かしていただこうと思って、リースを作ったりティッシュケースをデコレートしたり、いろいろやってみたんです。でも、そうじゃなかったんですね。みずみずしい生のお花に触ってもらい、香りを楽しんでもらって、最後に『きれいね』って感動してもらう。すると皆さん、笑顔になります。中にはいつも怒っておられるような方もいますが、そういう方にも通じる一瞬があるんですよ。それが奥深いんです」

森さんの顔がいっそう美しく輝きました。お年寄りそれぞれが好きなように花を挿した結果、何かが生まれ、それが森さん自身の勉強にもなるといいます。自然の状態を活かすスタイルを築いてきた森さんが見つけた現時点での“居場所”が、技巧ではなく感覚で花に接するお年寄りたちの集まる場だったことは象徴的です。そこでの経験は、きっと森さんが将来さらに羽ばたくときのための、大きな糧となることでしょう。

OVEと関わるようになって数年が経つ森さんですが、先日初めて散走にも参加してみたそうです。走り通せるか不安でしたが、終わってみれば楽しい半日だったとか。「自転車で草花や実を採集して、帰ってきたらリースに飾る」という、素敵な企画案も飛び出しました。森さんの花のナチュラルな魅力が、より際立ちそうですね。自転車と花のコラボレーション、いつか実現しますように。

近影

もり・みおこ
フラワーデザイナー。アメリカでビル・ヒクソン氏、ロバート・カップ氏ら著名アーティストに師事し、ニューヨーク州のパーソンズ校でアレンジメントを学ぶ。1995年に「グラマシー・パーク・フラワーショウ」新人賞(FIRST AWARD)を受賞。帰国後はブライダル、レストラン、企業、個人など多数のオーダーを受けながらアレンジメント教室も主宰。扱う素材は生花、シルク、プリザーブド、ドライなど多岐にわたる。

Photo:GOTO AKI

  • 前へ
  • この人と逢いたい一覧へ
  • 次へ
ツール・ド・フランスへ メールマガジン登録・解除 pageTop